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活躍する消費生活アドバイザー

特別支援学級でも消費者教育をされているそうですね。

山中 はい。残念ながら、今年は特別支援学級での社会科を担当できなかったのですが、「消費生活かるた」は使っています。
 10年くらい前に、初めて特別支援学級で社会科の授業をすることになった時、知的・情緒その他の障害があり、さらに理解度・特性や行動範囲のレベルがさまざまで、全員に同じ内容で授業を進めていくことが困難だと思いました。
 でも共通して言えるのは、「どの子にも悪質業者の餌食になってほしくない」「お金で悲しい思いをしてほしくない」ということ。授業の内容がどこまで理解できているか、理解が定着するかは不明ですが、「まずはやってみよう!」と「知るぽると」の教材を使ったり、手持ちの幼児用教材を使ったりして始めました。

 最近では、NACS中部支部で小学校低学年向けに実施した講座「テーマパークでお小遣いをどう配分するか」と同じ内容を中学の特別支援学級で行ったり、特別支援学級の生徒がバザーをする際に簡単に経済の話をしたりしました。
 特別支援学級での社会科は、カリキュラムが指定されないので、私が「ホントに伝えたい社会科」の授業ができ、やりがいがあります。

今後、どのような消費者教育に取り組みたいですか。

山中 学校の授業ではないのですが、消費生活の専門家、教員、生徒がオンラインミーティングで「消費生活に関するモヤモヤを話し合う座談会」の場を持てたらいいなと思います。
 オンラインミーティングなら、ビデオをオフにすれば顔を見せずに参加でき、チャットで発言すれば声も知られることはありません。これなら匿名性がいので若年層も自分の身の回りに起こった「人には言いにくいこと」を伝えやすく、表に出てこない消費者トラブルや未遂に終わったトラブルの芽が浮き上がってくるのでは、と思います。
 たとえば「細かい注意事項を読まずに契約した自分が悪いのだから」「被害が少額だから」と今まで誰にも言えなかったことを若年層が話しやすくなると考えます。
 消費者行政側からは、「自分に非があるとしてトラブルの際に相談を遠慮したり、泣き寝入りしたりすることはない」と伝えられると同時に、消費者トラブルの芽にいち早く気づけ、注意喚起もできると思います。

 また、成年年齢が引き下げられ、「18歳向け消費者教育を」という動きがありますが、私は特に大学1年生にもっと啓発が必要だと思っています。
 というのも、高校まで実家暮らしで、家事や諸々の手続きは親任せ、進学校であれば高校3年の時期は受験一色で、友人も含め犯罪から遠いことが多い。そんな高校生活を経て大学生になり、学校の履修登録や学校生活に関する手続きがどっと押し寄せます。知らない街で一人暮らしを始めれば、そこに衣食住に関すること、公共料金の支払いや手続き、その決済方法をどうするかなど、生活に関わる細かい手続きが加わります。
 また、クレジットカードには利用限度額があると頭ではわかっていても、自動車学校の費用に部活の遠征費用、教材費用…、それらを初めて作ったキャッシュカードでようやく決済したと思ったら限度額を超えたり、銀行の預金残高が不足したりする可能性もあります。支払いを求めるメールや電話が詐欺的なものか対応しなければならないものかの見極めも難しくなっています。
 うっかり支払いが滞るなど困ったことになっても、「親には言いづらい」と遠慮しているうちに時間がたち、延滞料金が高額になってしまう可能性もあります。親としても、子供が成人していれば事業者から「本人でなければできません」と言われ、代わりに手続きができないケースがほとんどです。
 また、今日では決済手段やポイント制度などが複雑になっており、諸々の手続きは重要書類が必要だったり煩雑だったりして神経を使います。手続きする時間帯が限られる場合もあります。今まで親元でぬくぬくと暮らしていたのに、急にこれらを全て自分でしなければならなくなり、疲弊してしまいます。
 そんなところに親切な先輩が「いっしょに成功している人の話を聞かないか?」と誘ってきたら?大学進学でお金をたくさん使ってしまったと思っているところに「割の良いアルバイトがある」という広告を見たら?
 お世話になっているから・お金をたくさん使ってしまったからと、頭では分かっているはずのマルチ商法や闇バイトに関わってしまうかもしれません。
 もちろん入学時のオリエンテーションで大学側も啓発していますが、シチュエーションによっては、人は必ずしも合理的に行動するわけではないですよね。  こうした新大学生のための「やることリスト」とアドバイスをまとめた教材を作ってみたいです。

エシカル消費にも積極的に取り組まれているようですね。

山中 最近は、友人の会社の製品や特別支援学級の生徒が作った商品、フェアトレードや被災地の商品などを法要の引き出物や同窓会開催時(幹事をやっています)のおみやげにして紹介しています。エシカル消費を広められるかなと期待して。
 私が一人だけでエシカル消費をしても金額ベースでは知れていますが、人に贈ったり紹介したりして、みんなが少しずつでも購入していったら、購入金額は増えていきますよね。売り手よし、買い手よし、贈り先よし、世間よし。最近の物価高騰で、心も財布も寂しくなりがちですが、多くの人に無理なく心温まる消費をするヒントを伝えていけたらと思います。

学校の立場から見て、消費者行政にどのようなことが必要と思われますか。

山中 私は消費生活アドバイザーとしても、教員としても、中途半端な立ち位置です。
 どちらからも「なに、トンチンカンなこと言っているの?」と思われていますが、「こういうところがネックになり消費者教育が学校になじみにくい。こうしたらいいのでは?」と、両方の立場から感じたことをかみ砕いて伝えられる、学校教育と消費者行政の架け橋になりたいと思っています。

 また、消費生活センターや行政機関は、生徒だけではなくて普通の大人にとっても敷居が高いです。「こんなことを相談したら怒られる。バカにされるんじゃないか」「自分なんかが電話したら(または行ったら)、お門違いじゃないか」と思う人がほとんどです。
 そんなことはない。消費生活センターは身近なところなんだと感じてほしいし、消費者のためにトラブルを解決する場所であるなら、身近なところであるべきだと思います。

 それには、消費生活センターの職員さんたちには完璧を目指さず、親しみやすい近所のおじさん/おばさん的キャラクターになってほしいです。
 児童センターのように誰でも出入り自由、かるたやゲームなど消費者教育に関する教材も置いてある・小さい時から来ているから萎縮しない・高齢者が図書館や公民館のような居場所として使う 。こんな消費生活センターなら、「きのう、こんなへんな電話がかかってきて」と気軽に職員さんと話せ、PIO-NETに出てこない被害や未遂に終わった消費者問題も集約できるのではないでしょうか。
そして、地域の小・中・高等学校にそれらの情報を伝えていただければ、消費者問題が予防できるのでは。またわざわざ時間をとって講座をしなくても自分ごととしてとらえられる消費者教育になりうるのでは、と思っています。

(取材:2024年10月26日)
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