学校教育と消費者行政をつなぐ架け橋になりたいと思っています
山中 みゆきさん(消費生活アドバイザー28期)
愛知県公立中学校 社会科講師
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学校教育と消費者行政をつなぐ架け橋になりたいと思っています
山中 みゆきさん(消費生活アドバイザー28期)
愛知県公立中学校 社会科講師
公立中学校の社会科講師をされていますね。
山中 はい、17年目になります。現在は週に12コマの授業を担当していますが、常勤講師扱いのため特別支援学級の数学・国語・音楽・作業の授業や朝の会・帰りの会などもあって、週19時間20分の勤務です。非常勤講師だった時は年間72コマから始め、昨年までの3年間は週20コマ程度を担当していました。
実は、社会科講師をスタートしたのは消費生活アドバイザー資格を取得した年なんですよ。
私が最初の職場にいた頃は、「結婚や出産で仕事を辞めるのが当たり前」という世の中で、出産後に働くイメージが描けず、退職しました。その後、ずっと家にいたのですが、脳ミソが腐ってしまった感じがして「これはいかん!」と思い、家族の勧めもあって消費生活アドバイザーの勉強を始めました。
苦節○年、ようやく試験を突破し、消費生活センターに「働かせてほしい」と出向いたところ、採用されず…。そこで、学生時代に取っておいた教員免許を思い出し、その足で学校教育課に行きましたら「時間数は少ない(年間72コマ程度)ですが、仕事あります」と、新任の先生が研修で出張される際、その補充をする非常勤講師として採用していただきました。
この時に、10年以上前の教育実習以来、授業をやったことがない「なんちゃって先生」が誕生。その後、一番多い時で週20コマになったりと、持ちコマ数も増えました。
仕事は楽しいけれど、正規教員もしくはフルタイムでの常勤講師を務める勇気はない。とはいえ、学校には関わりたい。さらに、消費生活アドバイザーとしても何か活動をしたい。そんなわけで二兎を追い、学校も消費生活アドバイザーもどっちも不案内な状態で「気づいたら17年」です。
授業に消費者教育を取り入れてこられたんですね。
山中 学校に勤務しはじめたころは、教科書に環境問題や経済についての記述が出てくると、もう少し詳しく話したくて、あちこちから消費者教育用教材をさがして授業に取り入れていました。
昨年度は、公民の消費生活分野の授業の導入に、某自治体から出ている消費者教育教材のクイズ部分を使いました。みんなでひっかかり、みんなで大笑いしました。
数年前、「授業でそのまま使える」と言われ、(公社)日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会(NACS)制作の「自立する消費者のススメ」を手に取ったのですが、「これを使って自分がどのように授業を進めるの?」と悩みました。それで執筆者に使い方や作成した思いをしつこく聞くと、「教えるのではない。こういう場面に出くわした時におかしいと気づく感覚を磨くのがこの教材の目的で、重要語句や制度の理解はここでは重要視しない」と言われました。
消費者問題は日々進化していて、「こういう手口は詐欺だから気をつけて」と啓発しているそばから、さらに巧妙な手口がどんどん出てきます。アドバイザー仲間たちからも、「私もうっかりひっかかりそうになった」という声を聞いています。だから「どこがおかしいか」を見抜く力を養うのはとても大切だと納得しました。
また、地元の消費生活センターに出向き、最近の当地区の若年層からの相談事例を聴きました。その時、「小さい字での説明書きを見落としたあなたが悪いのではない」「一人で抱え込まないでほしい」「私たち相談員が親に怒られないように配慮して相談を進めていくから、消費生活センターを身近に感じて活用してほしい」と言われ、これはぜひ生徒に伝えようと思いました。
実際の授業はいかがですか。
山中 上述の教材「自立する消費者のススメ」の中のマルチ商法の話から、シナリオを作って生徒に寸劇を演じさせて、どこがおかしいのか話し合っていたら、生徒からインターネット上の「投げ銭」の話なども出てきて、私が勉強になりました。インターネットのニュースなどでもよく目にする話題で、中3の社会科(公民)の消費生活の単元での授業だったのですが、雑談っぽくなっていたので、生徒も話しやすかったのだと思います。
消費者教育は、「出向いて・しゃべって、現場に戻れ」ですね。
この寸劇は、私が生徒にやらせたわけではなく、「『総合の時間』で劇の役者になれなかった、俺だって劇の役者をやりたい!」「僕にも読めるように漢字にフリガナふっておいてね」と生徒からリクエストされました。(本当は生徒にシナリオも作ってほしかったんですけどね。苦笑)
現在、闇バイトや男女問わず美容系の定期購入のトラブルが若年層の間で問題になっています。ざっくばらんに生徒と話せる消費者教育の授業ができれば、生徒が巻き込まれそうになっている消費者トラブルを察知しやすくなり、生徒指導担当者とも連携して注意喚起することも可能になります。消費者被害の未然防止・拡大防止に役立てばと思います。
授業の振り返りで、「電話一本で消費生活相談にのってくれるところがあると知ってよかった」と書いた生徒、「助かった〜」という顔をした生徒もいました。
2022年に論文「生徒と創る消費者教育」がACAP理事長賞を受賞されています。
山中 当時は非常勤講師だったので夏休みは仕事がなくて時間がありました。そして「消費生活アドバイザーとして何かやらねば」という思い、せっかく前年度に中3生を担当して歴史や地理で補足的にしゃべるのではなく授業でがっつり消費者教育をやれたので、「ここで文章にしておきたい」という思いがありました。
この論文に出てくる中3生は、マルチ商法の寸劇に取り組んでいた時点では成績が伸び悩んでいたのですが、最後にものすごく追い上げて、ほとんどの生徒が第一志望の高校に合格できました。彼らは「学びに向かって」いたんですね。受賞時には卒業してしまっており、報告もできず、お礼も言えなかったのが残念です。