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活躍する消費生活アドバイザー

さまざまな「人生の幕のおろし方」に伴走されたかと。

黒澤 センセーショナルなケースも含め、本当にさまざまな方の最後をサポートしてきました。「幕のおろし方」という意味では、一人っ子で生涯独身、子どももいないという方が、とりわけ印象に残っています。母ひとり子ひとりで育ち、契約時は60代で、お母さんが離れた地域の特別養護老人ホームにいらっしゃいました。
 任意後見契約書の一言一句に細かくチェック入れる方でしたが、一つひとつ説明していくうちに信頼してくださるようになりました。
 ところが、数年後に食道がんとわかりました。私は7時間くらいかかったその手術にも立ち合い、経過を見守りました。再発した後は過酷な状況でしたが、いくら費用がかかっても自宅で過ごしたいというご希望でした。24時間体制の看護、緩和ケアの方法、お母さんが存命であればお母さんに遺産が残せるようにする遺言書、亡くなった後の葬儀やお墓のことなど、全部聞き終わり、「看護の契約をこの日にしましょうね」と約束しました。そしてその日にお家にうかがうと、亡くなられていました。発見も早く、ご自宅で全部準備もされ、「生き切った」という感じでしたね。

高齢化が進み、人生の包括的な伴走支援が必要な人が増えてきている実感があります。

黒澤 そうですね。20年前は、人生の包括的な伴走支援を必要とするような人は例外的でした。このサービスを使っていることを隠そうとされる方も多く、老人ホームにいらっしゃる利用者に会う際に「姪ということにしてね」と依頼されることもありました。

 今は、そういうことはなくなりました。逆に「私はこういうサービスを使っているのよ」と、ほかの人に紹介するようになってきています。
 ただ、これだけ多様性が認められる時代になったにもかかわらず、なぜかいまだに、高齢者が病院に行くと「今日はお子さんは?」と聞かれたりします。それ自体がおかしいと思っています。事あるごとに「子どもがいてもいなくても、自分のことは自分で決めていく時代です」と言いつづけていまして、変わってきている手応えも感じています。

 一方で、身元保証などについての消費者被害も増加してきました。2016年には当時の最大手だった公益財団法人日本ライフ協会が経営破綻し、利用者のなかには契約していたサービスが受けられず、預託金の返還が受けられない人もいました。
 この後、2017年に消費者委員会が「身元保証等高齢者サポート事業に関する消費者問題についての建議」をまとめています。さらに2019年には厚労省より「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」が出されました。

 近年は内閣官房が横串を刺すような調整チームを作り、昨年1年間で大きな動きになりました。2023年9月には、認知症基本法に基づき、その施策推進基本計画を策定するため、内閣総理大臣を議長とする「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」が開催され、私もその構成員の一人として出席しました。

 政策として取り組んでもらえるようになったことで反響も大きく、テレビや新聞各紙にも取り上げられることが増えました。

では消費生活アドバイザー資格について。取得のきっかけなどは?

黒澤 日本ライフ協会が破産して消費者問題化した時に、「こういうことも起きるんだ」と思ったことです。この事業は、元気な時に契約します。しかし、高齢や死去により実際に必要になった時には自分で履行確認できませんし文句も言えません。契約はたいへん重要です。安心して利用していただくために、もっと契約についての知識をもつ必要があると感じました。
 そうしたことを提携先の会社の人に話したところ、消費生活アドバイザー資格を教えてもらいました。

現在の活動に消費生活アドバイザー資格が活かされていることは?

黒澤 日頃から契約にあたって、相手の人が不安にならないように、法律的にも問題とならないように、消費者目線で、といった意識をもつのに活かされています。
 また消費生活アドバイザー試験の範囲が「こんなにいっぱい勉強するの!」と思うくらい、幅広いですよね。私は行政書士資格取得のために法律は勉強していましたし、金融業界でアナリストをしていたので経済分野も大丈夫でしたが、企業経営の考え方やSDGs、CSR、コーポレートガバナンスなどについて新たな知識が得られ、勉強になりました。

後見において、消費生活アドバイザーがかかわれる部分はありませんか。

黒澤 あると思います。後見だけではなく、伴走支援全体のなかで、その人の人生に寄り添っていく新たな職業が必要だと考えています。

 私自身のライフワークとして、誰もが使える仕組みを作るために政府や地方自治体に知見を提供していまして、今、横浜市と協業して「すすき野団地における『個・孤の時代の人生ケアシステム』実証プロジェクト」に参加しています。
 そこにアドボケーター(家族や後見人がいない人の意思決定支援をする役割の人)をおいています。
 このアドボケーターに消費生活アドバイザーが適任ではないかと思っています。ご本人の尊厳を守り、希望を実現するために伴走してあげるのですけれど、倫理観とカウンセリング能力が求められますし、専門家ほど深くなくても、幅広い知識が必要です。
 消費生活アドバイザーは、まさにそういう資格ではないでしょうか。法律の概要がわかり、大枠は知っている。金融、介護、医療なども軽く知っていないと相談に乗れません。

「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」資料より

 判断能力の衰えた人の支援は始まったばかりです。「身元保証」の定義すらまだありません。実証プロジェクトで問題を洗い出し、政策提言につなげていくことになるでしょう。そうしますと、多数のアドボケーターが必要になってきます。
 その場合、ボランティアでは人が集まらないと思います。昔のように家族が機能しない時代ですので、アドボケーターをしっかりした職業にしていくべきだと思っています。

(取材:2024年3月13日)
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