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活躍する消費生活アドバイザー

1991年にシャンプーとリンスの容器を区別するキザミの開発に従事されました。

伊東 弊社は1978年に相談の声をデータベース化する「エコーシステム」を導入し、製品開発に活かしてきました。1990年に第1回消費者志向優良企業表彰を受賞した頃は、ちょうどシステムが世代交代し、全社で相談内容の解析がしやすい体制となってきていました。
 その頃、「シャンプーとリンスの容器が同じでまぎらわしい」「目をつぶっていると区別がつかない」「目が不自由なので容器を工夫してほしい」といった相談がぽつぽつ上がってきていました。

 そこで、本当にそうなのかを調査したのです。当時、研究所勤務だった私は、その担当になりました。
 「洗髪する時にシャンプーとリンスを間違えたことがありますか?」という質問で、間違えたことがある人が一般の方でも59%もいたんですね。
 次に、一番苦労している視覚障がいの方はどうしているのかと、盲学校に調査に行きました。盲学校の生徒さんたちは、触覚と位置で識別し、輪ゴムを巻いたり、「右にシャンプー、左はリンス」と位置を決めたりしていました。
 調査をもとに「触ってわかる基準があれば便利だよね」と、デザイナーがプロトタイプをつくって盲学校で使ってもらい、使用テストやヒアリングをしました。
 製品化された容器に対して、たくさん「よい」という意見をいただきました。しかもそこにとどまらず、「花王の製品だけよくても意味がないのではないか」と、業界他社に「実用新案を取り下げるから業界として統一してもらえないか」と働き掛け、他社にも1〜2年の間にキザミを入れていただき、2000年にはJIS規格の事例として掲載されました。

 さらに、現在はボディウォッシュにも横にラインが入っています。これは、視覚障がい者団体からの「公衆浴場やホテルのお風呂に並んでいるシャンプー、リンス、ボディウォッシュが区別できるようにしてほしい」という業界に対しての要望に応えたものです。弊社のデザイナーが「直線がよいのでは」と提案し、採用されました。キザミがある、何もない、一本線が入っているといった形になり、これもJIS事例に入っています。

シャンプー、リンス、ボディウォッシュの各容器

この開発で難しかったところは?

伊東 売上などとは違い、反響が数字で見えるわけではないので、効果測定が非常に難しいことです。
 「使いにくい、わかりにくい」と言われても、人体に危険が及ぶなら、すぐに変えなければいけないのですが、そうではないものに対しては伝え方が非常に難しいと思いました。メンバーが、社内・社外に対して強い想いをもち推進したことで形になったと思います。
 その時に、想いをぶれずに人に伝えることの大切さを学んだ気がします。

ユニバーサルデザインをモノづくりなどに取り入れる基準はありますか?

伊東 花王は2011年に、花王ユニバーサルデザイン指針を策定しています。要素が3つあります。

  • 人にやさしいモノづくり
    多様なお客様に、意識しなくてもふつうにわかりやすく、使いやすく安心して使っていただける製品
  • 「うれしい」をかたちにするモノづくり
    花王の製品は日用品が主ですが、使わなければいけないという気持ちで使うのではなく、使った時に楽しい、うれしいという気持ちをもってもらえる製品
  • 人や社会とつながるモノづくり
    使うことによって、自分に自信がもてた、家族や社会の中での役割ができたといった、お助けができる製品

 具体的なアクションとしては、「人にやさしい」を「接しやすさ」「使いやすさ」そして「安全」という3つの言葉に分解し、生活者がモノと接するタッチポイントごとのチェックリストを開発に組み込み、発売前にチェックしています。「モノを知る時」「見て選ぶ時」「買う時」、持って帰り「家でしまう時」「使う時」、最後になくなったら「詰め替える時」、ゴミに出す「廃棄する時」などです。これは、過去の類似製品の相談内容からのチェックや、実際の場面を想定した確認を中心に行っています。過去からの積み上げを含めると99%以上の製品で何かしらの配慮がされていると考えています。
 また、モノと接する状況は、時代によって変わります。変化への対応もチェックリストに入れています。たとえば、「住宅設備が変わっているが、これで危険はないか」「店頭ではなく、ネット通販で選ぶ時にも製品名がわかりやすいか」といったことです。

状況の変化に対応したアップデートは重要ですね。

伊東 必須だと思います。生活者コミュニケーションセンターでは、若者がよく使うYahoo!知恵袋の公式回答もしていますので、毎週、今流行っていることなどの情報共有があります。ほかにも、製品に対してSNSなどで届いた反響を聞き、以前とは違う使い方をされている、こういうふうに思われていると、知ることができます。
 たとえば、1976年から発売しているヘアスプレー「ケープ」。発売当初から愛用いただいているご高齢の方も多く、高齢の方の使い勝手をよくし、押しやすく、缶に凸凹のすべり止めもつけて持ちやすく改良しています。このケープ、最近は「前髪命(いのち)」の中学生が毎日使うものになり、修学旅行にも絶対欠かせないアイテムになっているんですよ。

 同じ製品でも使われ方がどんどん変わっていくことを、マーケッターはもちろんですが、私たち消費者対応部門としてもアップデートし、適合させなければなりません。洗濯機はここ10年でどんどん変わり、ドラム式の割合が増え、洗剤が自動計量できるものも増加してきている。製品が使われる環境が変わっていることにも敏感になって、一生懸命勉強をしていかなければと思っています。
 一方で、マーケッターと違い、私たちは以前からの2槽式洗濯機を使っている方の使い方もわかっていなければなりません。新製品に切り替えていただくのではなく、相談者に寄り添った情報提供を心掛けています。

パッケージデザインも変わってきましたね。

伊東 そうですね。たとえばクイックルワイパーは、かつては、女の人の写真がパッケージについており、その後、女の子の妖精になり、現在は、妖精をなくしました。そうしましたら、「家事をするのは女性と見えるようなパッケージだったから、変えてくれてありがとう」「女性の絵がついていなくてよかった」というお声もいただきました。
 DEIの考えが、日本でも浸透してきている兆しなのかと感じています。

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