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活躍する消費生活アドバイザー

とりわけ印象に残っている活動は?

 福岡県宗像市での「葉山ヘルスケア省エネ共和国」です。2006〜2007年の共和国立ち上げ前後の2年間、省エネの連続講義に呼ばれて通った時の経験です。省エネルギーセンターで私の実践講義を聴いてくださった、まちづくりコーディネーターの方からお話をいただきました。
 省エネの連続講義に加え、講師養成や、企業とNPOとのコラボレーションの仲介と育成など、「自走の仕掛け」を施したら、高齢化して疲弊しつつあったシニアのまちが、うかがうたびに笑顔が増え、参加者が増え、まちごと元気になっていきました。

 「自走の仕掛け」というのは、ワークショップをやってコミュニティの課題を洗い出して共有したり、「私が講師やファシリテーターとして通うのは2年だけですよ、あとはご自分たちでやってくださいね」と言って住民の中から講師養成をしたり、企業に頼んで公民館に調理機を寄贈してもらい、シニア男性向けに料理教室を開いてもらったりしたことです。おつまみ系レシピにビールも出して、など、企画案も考えました。
 取組み当時、企業からは「コラボレーションって何ですか?」「パイロットプログラムって何ですか?」などと聞かれれば説明し、NPOからは「日曜日のイベントに企業から出席がないのはけしからん」などのクレームがあったりすれば仲裁もしました。講演だけでなく、いろいろな主体をつなぐ役割も求められました。
 建国から10年後、再び講演に呼ばれた際に、建国前には黙ってうつむいて講義を受けていらした方から「林さんもオバサンになったなあ」と明るくヤジを飛ばされた時は、怒るどころか嬉しかったです。楽しい省エネや温暖化防止活動は、町も人も元気にすることを証明でき、実感できた貴重な経験です。

 環境やエネルギー問題の需要家側での解決法は、20年間一貫して「“快適・楽しい”がポイント!」と申し上げてきました。当時スタンダードであった「我慢・忍耐」とは正反対を申し上げるため、真面目な環境活動家からはお叱りや反発もありました。でも、もう結果も出ているし、ナッジなど行動経済学の発展もあり、今はこちらがスタンダードになっているのではと思います。

ところで、消費生活アドバイザー資格を取得されたきっかけは?

 大学時代、袖井孝子先生の授業で、黒板に書かれた「消費生活アドバイザー制度」という文字がなぜだか光って見えたのです。当時の受験資格が、28歳以上、企業の消費者関連業務の経験4年以上だったので、「いつかなりたいな」と思いつつ、外資系IT企業に就職しました。第2子を妊娠して退職したのを機に、託児付きの講座に通い、妊娠8か月で第2次試験。合格したときは乳飲み子を抱えていたのでフルタイムの就業は難しく、佐賀県のくらしのモニターに応募して活動を開始しました。

 「環境問題や社会問題に対し、消費者や企業はなぜ合理的な行動ができないのだろうか」というのが、受験時の私の問題意識でした。「一部の人だけが合理的行動をしても社会はよくならない。生活者側、消費者側から、草の根から社会を変えていくにはどうすれば?」という課題認識が、当時から一貫して私の中にあります。

 地球環境も、消費生活も、金融経済も、世界は全てつながっています。そのつながりを俯瞰して、足元で行動することが大切なので、生活者の立場からいろいろな主体と連携して、それを伝えていくことがミッションだと思っています。

啓発活動を行ううえで重視していることは?

 行動変容が全て、ということです。知識を伝えても、行動を変えなければ意味がないからです。頭でわかっていても、さまざまなバリアが邪魔をしていて、人は自分で行動を変えられないことが多い。それをどう突破するかに知恵を絞ります。そこが啓発の難しさであり、また醍醐味であります。
 また啓発現場はヒアリングの場でもあります。双方向コミュニケーションが重要だと思います。

 これまで、伝える仕事、つなげる仕事をたくさん引き受けてきました。講演や授業、ワークショップなどのほか、たとえば沖縄のビール工場で消費者がHACCP(ハサップ)を専門家から学ぶコーディネータ―の役割などもありました。生活者の視点から、専門家や行政や企業との橋渡しをする。それぞれの立場を尊重しながら、課題やポイントを見つけ出しつつ、つなげていく役目です。「バランス感覚が重要だな」と思うことも多いです。

 消費者の代表として、「企業や行政にこうあってほしい」と意見を言う機会も多くありますが、その際に、啓発現場で集めた市民の声が生きてきます。消費者の意見を代弁しつつも、それぞれの立場に寄り添って、最適解を見いだしていく調整力も必要です。

 長年、家や地域の子どもたち、親子、シニアの消費者グループの方々などとの対話型授業やワークショップを行うなかで、「人の行動を変えるのにはどうすればいいか」と、工夫を重ね、奮闘してきました。重ねてきた苦労や工夫は、自分自身のライフステージ(子育て〜現在は孫が生まれアクティブシニアの域に)においても、消費生活アドバイザーとしての経験としても、私の血肉になっています。

 モットーとしてきたことは、「失敗から学ぶ」です。何事も自分の頭で考え、自分で手足を動かし、失敗をしなれば、本当の経験や知識は身に着かないのではないか、と思います。子どももそうでしょう。大きな失敗をしないよう、日頃の小さな失敗から学ぶ。失敗から身に着けた学びは深い。金融経済教育でも、環境・エネルギー啓発でも、それは変わりません。

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