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特集記事

柿野先生(法政大学大学院) 皆さん、ありがとうございます。自己紹介を兼ね、お一人ずつご発言いただきました。続いて、現在みなさんが大学院での学びをどのように活かしているのか、教えてください。

藤井 マスターを取得して、一番変わったことがあります。修士論文を書く際に、論拠を示すなど論文作成の基本を学んだことが、仕事にも活かせている実感があります。消費生活アドバイザー資格だけの時には、そのような力の必要性の認識もありませんでした。
 今後は、この実感していることを一つひとつ積み重ねていきたいと思っています。

北﨑 私は修士論文に「地域コミュニティで児童と親子の体験的な消費者教育をどのように行うか」といったことをまとめました。修了後、それをもとに実践をしているところです。誰から頼まれることもなく、実質的に地域で消費者教育を行うコーディネーターになりました。
 これはひとえに大学院を卒業し、しっかりしたエビデンスを基に臨んでいることで可能なのだと思います。
 先日も、子ども団体主催の「児童と親子向けの体験消費者教育」の教室にうかがい、粕谷先生のゼミの大学生お二人に講師役を担っていただいたり、サポーターをしていただいたりしました。
 こうした活動を2年近く続け、成果と課題が出てきたので、これから整理していきたいと思っているところです。

田中(克幸) 私が住んでいる名古屋市には、消費者教育コーディネーターという制度があります。ただ、残念ながら私が考えているコーディネーターとは違っているところがあります。実際の現場に行って講師をすることも大事ですが、より広くいろいろな地域を結び付けるコーディネーターが必要だと思っています。
 今は消費生活相談に携わりながら、現場で何が起きているのだろうと考え、そのなかからどのように教育や啓発を行っていけばいいのかを学んでいるところです。

山地 私はここ2~3年、査読論文の作成に取り組んできました。卒業して1年目は経営行動研究学会、2年目に日本中小企業学会に論文を提出し、無事に査読受理をしていただくことができました。
 省庁の委員などを務めさせていただく機会に、これまでの学びや論文作成が、自分の言葉に説得力をもたせている実感があります。

伊藤 私は保険調剤薬局の管理部門に勤めていることから、修士論文も「保険調剤薬局ビジネスの経営課題~消費者志向経営と個人情報保護への対応~」にしました。その内容に関連して、修士論文報告会の席上でご出席いただいた先生から「薬局の24時間対応は消費者志向とはいえ、過剰すぎるのではないか。是正してもいいのではないか」とのご意見をいただき、ハッと気づくことがありました。
 医療なので難しいところはあるのですけれども、消費者志向といっても、「そればかりに突き進むのも、一方通行過ぎて違うのかな」と。企業側としてのボランティア的努力だけで成り立っている部分があり、「どこまでが法律が求めているところなのか」「どこまでが企業側の努力できるラインなのか」。そのような点について、あらためて探っていくところにも、マスアドが関われる余地があるように思っています。

田中(義雄) ACAPの委員会で、内外に出す文書の校正を担当しています。私も、大学院で文章の読み込み力を鍛えられました。「田中さんの添削は細かいけれど、全部、的を射ていてありがたい」と言ってもらえ、実務的に役に立っています。
 資格活用という点では、マスアドだけでなく消費生活アドバイザー資格も、「取得して何かいいことがあるのか」という課題があるように思います。
 私が以前勤めていた会社でも、資格取得しても給料が上がるわけではありませんし、営業にも役に立ちません。そうしたなかで、延べ千人ぐらいアドバイザー資格者がいました。私はそのうちの半分くらいの人と話していますが、「外から見ると変わらないけれど、自分の中はすごく変わった」と、ほとんどの人が言われるんですね。マスアドは、ますますそうなのではないでしょうか。

石川 私は明治大学大学院で公共政策の一環として消費者行政を学びました。こちらの大学院のよいところは、議員さんや行政の方やNPOの方など、いろいろな立場の方が来られていることです。そのことで、消費者教育や消費者保護だけでなく、経済の発展という視点も得られ、研究を深めることができました。またさまざまな立場の人の連携、お互いに理解する姿勢の重要性に気づくことができました。

柿野先生 私も明治大学大学院で「コンシューマー・リテラシー」の授業を担当していますが、履修した大阪市の市議会議員さんが、消費者教育推進計画がないことに気づき、議会で質問をして計画作成につながったことがありました。明治大学大学院のコースの一つの特色ですね。

今後、マスター消費生活アドバイザーが活躍、拡充していくために必要な視点・課題

田中(義雄) マスアドを取得し、「何か、恩返しをしたい」と思って活動していることが2つあります。
 一つは、マスアド取得につながる大学院で学ぶ仲間を増やすことです。
 もう一つは、消費者庁消費者教育推進課が実施している「事業者における従業員向け消費者教育の推進」制度の講師です。マスアドの皆さんが活躍できる場になるのではないかと思います。
 私は、以前に勤務していた企業で新入社員向けにこの講師をしていまして、退職してからも当時の職場から依頼され、年に1回、ボランティアで行っています。マスアドの方ならできると思います。
 こうした活動がきっかけとなってマスアド資格が広がっていってほしいです。

遠藤 マスアドを取得後、人事部に資格者の申請をしようとしましたら、「資格コードが存在しない」と。定年前に、難しい資格の取得者として顔写真入りで社内報に載ってみたいと思っていたのですが、「夢破れたり」でした。
 もっとマスアドの知名度が上がると、後に続く人が増えるのではないかと思います。
 私は修論の課題研究のテーマを消費者教育で行いました。と言いますのも、20代前半に就職し、営業の仕事に就いてから「どうしてこんなことがクレームなってしまうのか」と思うことがよくあったからです。しかし長く働くなかで、「そもそも、皆さん、契約について知らないんじゃないか」と気が付きました。では、「どうして知らないんだろう」ということで、学びに務めてきた経緯があります。
 今、「貯蓄から運用へ」とかエシカル消費など、時代のベクトルに合った情報は伝わってきます。しかし、1丁目1番地の「人の話をよく聞く」「渡されたものをしっかり読む」「人の話を最後まで聞いてみよう」といった、契約の基本を伝える人が、実は世の中にはそんなにいない。そうしたことを行う伝道師というか、エンドユーザーが説明を受け入れられるように伝えられるのが、マスアドなのではないかと思っています。
 消費者庁におかれても、そうした人材であることを念頭に、いろいろな施策を実施していただきたいですし、自分も忘れずに取り組まなければならない課題と思っています。

飛田先生(昭和女子大学) マスアドの能力を活かす場が増えていってほしいですね。
 考えてみますと、消費者行政、消費者団体のもともとの目的は、消費者の意見を代弁することです。そして意見は必ずしも一つである必要はありません。自分の意見を表現する力を得られたマスアドの方の多様な観点が活用できると思います。
 たとえば、消費者庁からマスアドの方に「こういうことをやるので手伝って」と声をかけていただくことができればと思います。
 昭和女子大学としても、マスアドの方に協力いただくいろいろな機会ができていくことと思いますので、ぜひお願いしたいです。

内田(消費者庁) 消費者庁としては、まずはご意見をしっかりと受け止めたいと思っています。
 消費者庁ができまして15年たちましたけれど、まだまだ消費者政策の分野は、成長途上と感じているところです。とくに人材の確保という面では、広く消費者政策に関わっていただく方々、最前線の現場で主導的な立場を担っていただく方々、行政など消費者政策に関わっていただく方々、研究面を深めていただく方々、どの場面も人材の層を厚くしていくことが課題だと考えています。
 そうした場面で、実務のご経験があり、かつ消費者政策に関わる幅広い分野の学びを得られていることを目に見える形で達成されているマスアドの方々と、どのように連携をさせていただけるのか、考えていきたいと思っています。

山地 「マスアドの意見を聞きたい」という機会を定期的に設けていただくだけでも、資格者どうしの横のつながりができ、かなりモチベーションが高くなると思います。今回のような他大学院とも横串を刺すような座談会などを設けていただけるとありがたいです。

武蔵先生(同志社大学) 本日は東京の方が多く、「東京と関西ではだいぶ熱量が違うな」と感じました。関西でも消費生活アドバイザー資格者がたくさんいらっしゃる企業もありますが、高額な学費を自分で払い、大学院まで入学していただける方が、残念ながらなかなかいません。ですが、このような意見交換の場がありましたら、同志社大学も参加させていただければと思います。

藤井 私が昭和女子大学を選んだ理由は、仕事をしながら履修できる夜間のカリキュラムがあったのは指定大学院のなかでこちらだけだったからです。
 当時は三軒茶屋のキャンパスに通うのを楽しみにしていたのですが、コロナ禍になり、履修はほぼオンライン授業でした。ですが、それがなかったら、これほどオンラインを使いこなせず、遠方にいらっしゃる田中さんとディスカッションすることもできませんでした。
 オンラインを活用することや、働きながらオフィスアワー以外に履修できるようにカリキュラムが組まれていると、大学院の選択肢も増えてくると思います。この2点を広げていただくと、今は首都圏と関西だけだと思いますが、ほかの地方でも指定大学院ができるのではないでしょうか。

来住野先生(明治学院大学) 明治学院大学は土日や夜間は開講していませんので、昼間だけです。マスアドを目指す方は仕事を続けながら履修する方が多いだろうと思いますので、そのニーズには当大学院は応えられないですね。
 ただ、今年は学部から大学院にストレートに上がってきたマスアド候補者が1人修了しました。消費生活アドバイザーを取得したので、あとは実務経験待ちです。

柿野先生 昭和女子大学はオンライン授業を進めてらっしゃるんですか?

粕谷先生(昭和女子大学) そうですね。社会人の院生にはお仕事をされている方、育児休業を取られた男性の方など、いろいろな方がいらっしゃいます。時間があってお近くでしたらキャンパスに来て女子大気分を味わっていただく、またオンラインでも入っていただけるように運用しています。
 時間帯も、昨年度は、午後6時10分~7時40分の90分間と、10分の休憩の後、次の授業が7時50分~9時20分。昨年以前に卒業された方の「もっとたくさん授業を取りたい」というご意見を踏まえて我々教員も頑張り、この時間にしています。休憩時間は、当初は5分だったのですが、皆さんから「頭が切り替えられない。もう少し長くしてほしい」とのご希望があって10分になりました。

田中(克幸) 私は愛知県から履修させていただいたのですが、「コロナ禍があったからできたのかな」と。オンラインという授業方法に後押しされたところもあります。先生方には夜遅くまでやっていただいて、大変ありがたいと思っていました。

粕谷先生 今、企業の方々が大学で学んでいただくリスキリングが盛んに言われてますけれど、日本でも進んでいってほしいですね。「企業派遣という形になっていければ」との思いもあります。

須黒 振り返ってみると、「この資格を取りたい」というよりも、「もっと学びたい」という気持ちから大学院に進みました。大学院に行くためのお金と時間の制約はすごく大きかったです。
 今後同じような志をもつ方に参加していただくのにオンラインは有効で、移動時間の節約にもなります。また私も、夜間開講してくださったことで、卒業まで続けられたと思います。
 1期生ということもありまして、修了時に、マスアド資格者たちがどういう活動をするかで、この資格の有効性というか、どれだけ社会に認められるかが決まってくるのではないかと責任も感じました。15名に増えましたが、知名度はまだまだ低い。マスアドに活動の場を提供して、この資格を世の中に広めるお手伝いをしていただくとともに、資格者もそれに応える努力をすることが必要と思います。

柿野先生 今日の座談会では、マスアドの皆さんが大学院での学びを活かして、それぞれに活躍の姿を形成しつつあることを感じました。今後は、マスアド同志のつながりや、大学間や行政とのつながりをさらに強化し、消費者政策の専門人材として皆さんの能力を活かし、活躍できる環境づくりが一層重要ではないかと思います。今回の座談会をきっかけに、これからも皆さんと協働していきたいと思います。
 本日はご参加いただき、ありがとうございました。