特集記事
講演抄録
欧州先進企業事例から学ぶ持続可能な消費と生産
平成27年度(一財)日本産業協会交流会(2016年3月18日)より
Sustainavision Ltd. 代表取締役
下田屋 毅(たけし)氏
川崎重工業株式会社工場管理部にて10年間、人事・労務・安全衛生などを担当、環境ビジネス事業会社の設立に参画後、渡英。CSRにおける日本と欧州の架け橋となるべく、2010年、英国にSustainavision(サステイナビジョン) Ltd.を設立。CSR/サステナビリティコンサルタント。ロンドンをベースに活動し、講演・執筆など多数。
CSR/サステナビリティ??
CSRとは何でしょうか。サステナビリティ(Sustainability)との違いは、何だと思いますか。
欧州では、CSRとサステナビリティは、しばしば同じ意味で使われます。
私は、CSRを「企業活動そのものであり、経営戦略として対応していくもの」と定義したいと思います。
同様の意味で使われる言葉をまとめてみました。たくさんあります。
- ・CSR(Corporate Social Responsibility):企業の社会的責任
- ・CR(Corporate Responsibility):企業責任
英国でよく使われます。
- ・Sustainability:持続可能性/サステナビリティ
- ・Corporate Sustainability:企業の持続可能性/サステナビリティ
―Environmental Sustainability:環境の持続可能性/サステナビリティ
―Social Sustainability:社会の持続可能性/サステナビリティ
- ・Triple Bottom Line:トリプルボトムライン
ジョン・エルキントン氏が提唱。ボトムラインは、英語で決算書の最終行のことで、トリプル・ボトムラインは、環境と社会、そして経済、この3つを満たすとするものです。
- ・Corporate Governance:コーポレートガバナンス
では企業は、CSRにどのようなイメージをもっているのでしょうか。
私は日本のCSR部門の方々とよくお話させていただくのですが、CSR部門以外の人々(経営層、その他従業員)は、寄付活動・慈善事業あるいは企業経営に関係のない余剰部分といったCSRのイメージをもたれていることがあります。これは日本に限らず、欧州でもそうです。
CSRという言葉を使っていても、企業内で認識に違いがあるわけです。企業は、同じCSRの定義を社内でもたなければ、同じ方向へと力を合わせて進むことができません。
CSRの定義を合わせるために、そしてこれらを浸透させていくためにはどのようにしたらよいかということになります。
海外企業のCSRプログラムに、次のようなものがあります。
- ・ネスレ:CSV(Creating Shared Value)
CSVは、ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーター教授等の論文によって紹介されていますが、もともとはネスレがCSVという名称を作りました。社会的問題を企業のコアビジネスで解決するといった部分がクローズアップされていますけれども、ネスレは包括的にCSRプログラムをCSVという名前で実施しています。
- ・ユニリーバ:Sustainable Living Plan
- ・マークス&スペンサー:Plan A 2020
- ・コカコーラ・エンタープライズ:CRS(Corporate Responsibility & Sustainability
- ・イケア:People & Planet Positive
- ・キングフィッシャー:Net Positive
上記企業は、CSRを先進的に実施している企業ですが、CSRという言葉でなく別の言葉を使用して進めていこうとしています。各社、CSRと異なる名称をつけて、企業経営としてCSRやサステナビリティを企業に浸透させて全体で実施しようとしているのです。
企業によっては、CSR部門と他部門の人とはCSRの定義が違うことがよくあります。この場合、それぞれが違う定義の話をしているので、まったくかみ合わないということになります。
また、企業の経営層の方々が認識しているCSRが前述の寄付活動や企業にとって余計な活動などである場合には、CSR部門が推進しようとしても、トップの方から「その必要はない」と、理解が得られない状況にもなります。
欧州のCSR先進企業は、経営層、CSR部門そして、それ以外の部門が、同じCSRについての認識をもち、その上でトップダウンで進めています。