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活躍する消費生活アドバイザー

黒澤 史津乃さん

老後とその先を支援するアドボケーターにも、消費生活アドバイザーは適任と思います

黒澤 史津乃さん(消費生活アドバイザー39期)
株式会社OAGウェルビーR代表取締役 / 行政書士

大手資産運用会社にて証券アナリスト(CMA)・エコノミストとして調査業務に従事した後、2002年より家族に頼らずに老後とその先を迎えるための仕組みを提供するNPO法人の業務に携わる。2007年に行政書士登録、本格的に高齢者や障害者についての法務問題に従事し、成年後見・任意後見の分野において100件超を扱ってきた。2021年から(株)OAGライフサポート〈現(株)OAGウェルビーR〉に参画、2023年に同社代表取締役に就任。内閣官房「認知症と向き合う『幸齢社会』実現会議」構成員。共著に『家族に頼らないおひとりさまの終活』『葬儀の疑問? 解決事典』(監修)。
クラシック音楽を愛好。「子育てが終わりましたので、自分も楽器演奏ができたらと、最近フルートを始めました」

代表取締役をされている(株)OAGウェルビーRについて、簡単にご説明願います。

黒澤 家族に頼らずに自分の老後とその先の死を迎えるにあたっての支援事業を行っています。
 今、日本では元気なうちはなんでも1人で決めることができますが、病気や認知症になった時、また亡くなった後は、どうしても意思決定の主役が自動的に家族になってしまいます。しかし家族に頼れない人や、家族がいても頼りたくない人もいます。そういった人が、どのように老後とその先の死を迎えるのか、明確にされていない場合がほとんどです。
 そこで、元気なうちに公正証書によって契約を結び、家族の代わりにいろいろ支援をしてさしあげる権限をいただくことによって、正常な判断ができなくなってもご本人の尊厳を守り、ご希望を実現するお手伝いをします。

 こうして人生の包括的な伴走支援を行うためにいただいておく権限の一つに、認知症への備えである「任意後見契約」がありますが、当社は、法人として後見を引き受け、状況がわかっている人がずっとかかわっていくことを基本としています。書類作成など、いろいろな仕事を振り分けながら、担当者がとりまとめるチームプレイですね。
 契約は、ご自分で申し込まれる方が多いです。ご契約を終えると、みなさん「ホッとした」とおっしゃるんですよ。最近は銀行からの紹介も増えてきています。

どのような方のご利用が多いですか。

黒澤 ずっと独身で過ごし、子どもがいない方がいちばん多いです。それから、お子さんがいないご夫婦ですね。兄弟はいて、甥・姪もいる。しかし「急に倒れた時に年賀状しかやりとりしていない甥・姪にやってもらうのは…」という方が多いです。
 最近は、子どもがいても利用される人が増えてきています。子どもも忙しいし、迷惑をかけたくない。
 意識が変わってきている感じですね。

参画されたきっかけは?

黒澤 実は私は、この事業自体には20年以上かかわっているんです。と言いますのも、日本でこうした事業に最初に取り組んだNPOの職員としてずっと最前線の現場で仕事をしてきました。

 支援の形は、1999年に成年後見に関する法改正があった頃から徐々に変わってきています。
 最初は、身寄りのない人の問題として福祉分野から始まり、NPOなど非営利団体が行っていました。しかし、契約の締結から終了まで何十年とかかりますので、寄付金に頼りながらの組織運営では事業計画が立てられません。事業として成立しなければ継続できないのではないかと考え、2021年にOAGグループに参画することにしました。OAGグループは、税理士法人を中心として、公認会計士・弁護士・社会保険労務士・行政書士をはじめとした専門資格者が集まり、ワンストップでサービスを提供しています。
 OAGグループがニーズを感じていたところと、私たちが事業として進めたいと思っていたところが、マッチングしたという感じです。事業者としては後発ですが、予想よりも順調に契約が増えています。

2023年、代表取締役に就任されました。

黒澤 ずっと現場での仕事だったので、「経営というポジションが自分にできるだろうか」と不安や葛藤はありました。それでも「引き受けよう」と思ったのは、現在の状況への危機感です。離婚率が上がり、少子化も進んでいますので、家族に頼れない状態で高齢期に突入する人口が、今後著しく増加するのはあきらかです。そうなる前に、しっかりした仕組みをつくっておかなければなりません。
 「誰がそれを行う? 現場や業界のことは、たぶんあなたが日本でいちばん詳しいよね」。そんな心の声が聞こえました。「おそらく日本でいちばん場数を踏んでいるあなたがやらなくてどうするの」と。
 もちろん制度や法律的なことは、もっと詳しい士業の人や研究者がいます。しかし私は、関連の法律ができた20年以上前から身寄りのない高齢者に身元保証事業を提供するNPOの現場で仕事をしてきました。

草分けともいえるNPOで仕事をするようになったきっかけは?

黒澤 偶然ですね。私はもともとは金融業界にいたのですが、朝早くから夜遅くまで仕事をする当時の金融業界では、子どもを育てながら働くのは不可能でした。たまたま退社時の上司の家族が、そのNPOのメンバーで、「新しい後見制度を取り込んで契約したいからパソコン作業を手伝ってほしい」と頼まれました。
 そのNPOに、たいへん感謝しています。子どもの成長とともに働き方を柔軟に変えてもらえました。赤ちゃんの時期はリモートで仕事をさせてもらい、幼稚園に行っている時期は短い時間だけ事務所に行くようになり、小学校高学年の頃には地方出張もしていました。行政書士の資格も、子どもが低学年の頃に取得できました。

そこで現場を積み重ね、後見が100件以上になったんですね。

黒澤 はい。実際に裁判所の手続きを100件以上行いました。
 でも、私たちの事業では後見制度は一部なんですよ。病気になったり認知症になったりしてからのことです。またどんな人も最後は必ず亡くなりますので、亡くなった後まで支援します。
 元気なまま、ピンピンコロリでしたら後見制度は使いませんし、ゆるやかな認知症の場合も使わないことがあります。認知症がひどくなった状態で、大金を動かさざるをえない時に後見制度を使うわけです。亡くなった後までの伴走支援をしているなかで、たまたま法律的に後見制度を使わなければいけなかった、そこを通過した人だけで100件以上です。

現在の後見制度は「使い勝手が悪い」という批判もありますが。

黒澤 利用する人が増加したことによって問題点が明らかになってきているのだと思います。
 ただ私は、任意後見制度を使って後悔したことは1回もありません。
 ご本人の判断力が落ちて正常な判断ができない状態で老人ホームに入居しなければならなくなると、大きなお金を動かすことになります。その決断はこちらも怖いので、「この人は、こうした計算によりお金も足りるので、この老人ホームがいいと思います」という理由付けをし、家庭裁判所や監督人にしっかりチェックもしてもらいながら、居所の選定などを行います。
 認知機能が衰え判断ができなくなった時に、後見人が勝手に使っているように思われるのは、絶対にあってはならないことです。監督人報酬などの費用がかかっても、必要な場面で任意後見を行わなければ、と思います。後見制度を利用することに慎重な意見もありますが、私は「つなぐ派」です。
 とくに大金を動かす時には、迷わず後見につなぎます。1人で闘病されていた人が亡くなった後に相続人がたくさん出てきたりします。そうした人に後見人として報告書を示し、「このようにきちんと支援していました」と説明することができます。

 たとえば、バリバリ仕事をされてこられた資産家の独身女性で、高級老人ホームに入られた方がいらっしゃいました。しだいに認知症が進み、その老人ホームから「昔からのお友達に誘われてパチンコにしょっちゅう出かけています」と電話がきました。「月50万円も使っています。後見人になったほうがよいのでは」とのこと。自分でお金の管理ができなくなっているようでしたので、すぐ申し立てをして任意後見人になりました。
 その方は当時、がんになられていまして、余命は長くないという状態でした。お友達にたかられているのかもしれませんが、パチンコが楽しみなんですね。月に50〜60万円はともかく、いくらまでなら大丈夫だろうかと余裕をもたせて計算し、「月20万だったら自由に使えますよ」と監督人や家庭裁判所にご理解いただき、ご本人にもお伝えしました。
 そういったことも、本人の尊厳を守ることの一つと思います。それを取り上げてしまうのは、「やっぱり違うかな」と思いました。任意後見だからできたと思います。

伴走して信頼関係を築いていくことが、尊厳を守る後見につながる気がします。

黒澤 おっしゃるとおりだと思います。伴走するなかで、その人がどういうことを望むか把握できていれば、後見に組み込めますし、それを家庭裁判所や監督人がチェックすることもできます。ただし、お金はかかります。
 任意後見は、将来の後見人に対するかけ捨ての予約のようなものと考えるとよいかもしれません。かけ捨てなので、予約しても使わないで終わってしまうケースもたくさんあります。

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